「ルメイサ事件」に見る“非戦闘地域”の欺瞞

防衛省の日報隠蔽問題が連日報道されている。

森友・加計問題で体力を失いつつある安倍政権は、小泉政権下で実施された自衛隊のイラク派遣時の日報を公表することで国民の信頼を取り戻そうと躍起になっている。

公開された日報からは「戦闘」や「銃撃戦」などの物騒な文言も確認されたという。

ネット上では物騒な文言もあるが、「24人前の素麺を5人の隊員たちが平らげた」などと意外にほのぼのとした日常も記録されていることに驚いたといった声もちらほら見受けられる。

ただ、この防衛省による日報公表の報道を耳にしたとき3年前慌ててスクラップした新聞記事を思い出した。↓
3年前の記事なので残念ながら朝日新聞デジタルには残っていない。
本来なら朝日新聞社に掲載してもよいのか許諾を取らなければならないが、そこは大目に見てくれることを期待している。

さて、上記の記事は小泉政権下で実施された自衛隊によるイラク・サマワの復興支援活動を記録した内部文書に基づくものだ。

2003年に米ブッシュ政権が大量破壊兵器の存在(のちに、大量破壊兵器は存在しなかったことが分かっている。)を口実にイラクを攻撃したことに始まるイラク戦争の長期化が問題視されていた時期のこと。

同盟国である日本は湾岸戦争時、資金提供のみで「小切手外交」と揶揄された過去を引きずっていたらしく、人的支援もすべきという機運が自民党内でも高まっていた。

しかし、現在のように当時は集団的自衛権は認められておらずさらに人道支援活動においても日本は憲法9条抵触のおそれから活動範囲を他国よりも厳しく制限していた。

それでも、なんとか米国にゴマをすりたかったのか小泉政権は自衛隊の派遣先が「非戦闘地域」であることを繰り返し強調し、正当性を訴えた。

戦闘が行われていない場所であるという「非戦闘地域」を使うことで派遣に対する批判を沈静化させる意図があった。

この時点で「非戦闘地域」というフレーズがただの方便だったことを気付く人が多くいてもおかしくはないのだが、国民は2005年の衆議院選挙で自民党に圧倒的な議席を与えた。

朝日新聞が取り上げた「ルメイサ事件」(詳細は上記の記事参照)は、当時の政府の「非戦闘地域に派遣する」という説明がいかに欺瞞に満ちたものであったかを浮かび上がらせた。

少し考えれば分かる話だが、そもそも「非戦闘地域」がどこからどこまでの範囲なのか定義すること自体きわめて無理があることなのだ。

イラク側からすれば、根拠もない言いがかりをつけて無垢の市民を殺害した米軍が我が物顔でイラクを闊歩しているのだから言いようのない憎悪が生まれるのは当然のこと。

イラク各地で、駐留していた各国の軍隊に対するテロ事件が頻発していた。

日本政府は、言いがかりをつけて無垢の市民を大量に殺害した米政府の身勝手極まりない侵略行為を批判するどころか支持していた。

そんななかで、「ここは戦闘が起きていない場所だから心配することはありません」と言われて「はいはい、そうですかいってらっしゃい」というアホがどこにいるのか(実際はいた)

当然、米政府の行為を支持した日本の自衛隊にイラクの人びとの憎悪が向けられることも十二分に予測し得たはずた。

そしてフタを開けてみれば、決して銃口を市民に向けることなく人道支援に徹していた自衛隊員に対してもその憎悪の目が向けられた実態が明らかになった。

当の本人(小泉純一郎氏)は先日の会見で安倍首相の3選が厳しいという認識を示した上で当時のことについて問われると「知らなかった」としらばっくれていたが、これで小泉政権下の欺瞞が白日の下にさらされたと言えるだろう。

しかしこの事実からもう一つ分かることがあった。
朝日新聞はなにも、小泉政権時代の回想録を載せたわけではない。

記事が書かれた3年前はちょうど、安倍政権下で成立しようとしていた集団的自衛権行使容認を柱とした安保法案が国会でも国民の間でも激しい議論が交わされていた時期だ。

このとき、安保法案が成立することで自衛隊の戦地派遣の地理的制約が撤廃され米軍との一体化した戦争行為が可能となってしまうことを問われた政権は「自衛隊を派遣する場所は、あくまでも戦闘が起きていない非戦闘地域に限られるという原則に変わりはございません」と繰り返し強調した。

要するにこの説明は、イラク派遣を強行した小泉政権の説明と全く同じなのだ。

しかも、小泉政権時は集団的自衛権さえ認められていなかった。

端的に言えば、安倍政権はこれまでの「自国に対して攻撃があった場合のみ反撃する」という原則に「お友だちが他国から攻撃されていたらうちも武力行使してお友だちを守ります」(集団的自衛権)というどう考えても戦争に巻き込まれるリスクをいたずらに高めるような権利を加えようとしていた。

そんな、「おまえらそんなに戦争したいんか!」と突っ込まざるを得ないようなことを憲法の理念を無視して成立させてしまった政権が「自衛隊を派遣する場所は、非戦闘地域です」と説明しても1ミクロンの説得力もないことは言うまでもない。

朝日新聞のこの記事はそのことを訴えかけたかったのではないかと私は思う。

ところが結果的には憲法において「私たちは戦争しません」と表明しているのに、「俺のダチをシバくのは許さん、おまえらシバイたる」とヤンキー映画ばりの知能指数を疑うような暑苦しい正義感を振りかざそうとする安倍政権に多くの信者が生まれてしまった。

歴史は繰り返される、国民はすぐ忘れる(記憶から消してる?)
そのことを、安倍政権はよく知っているしそれらのことに関して記憶がなくなることはないらしい(面会した人物や、お友だちのことはすぐ忘れる薄情さは健在)

戦火がおさまっても、それがいつ再燃するかなど未来人にしか分かるわけないのである。

今後いかなる政党が政権を担っても政府の定義する「非戦闘地域」を一切信用しない。
そんなものはご都合主義の妄物でしかない。

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